スケールからのアプローチ

まずは、スケールからのアプローチ。

例えば、Gメジャースケールを考えてみましょう。Gメジャーでは、調号としてファに#が1つ付きます。これを、「G♭」とは表記しません。

なぜでしょう?

Gメジャースケールは

「ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#、ソ」

です。もし、このファ#をソ♭と表記すると

「ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ソ♭・ソ(ナチュラル)」

となってしまい、ソとソ♭が出てくるたびに、その音に臨時記号が付加されることになります。つまり、ものすごくわかりづらくなってしまうわけです。「楽譜の先頭に付加される調号だけでキーを表現できなければならない」というのが原則です。

したがって、理論的に言えば、「Gメジャースケールにおいて出される音は、F#であってG♭ではない」ということになります。逆に、「D♭メジャースケールにおいて出される音はG♭であってF#ではない」ということになります。

・・・あら?そこに気づきました?すごいですね(何も言ってない)。

そうなんです。「D♭メジャースケール」と「C#メジャースケール」は、使う音は同じですが、記譜法は違います。D♭メジャーでは「レ・ミ・ソ・ラ・シ」にそれぞれ♭が(計5個)、C#メジャーは「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」にそれぞれ#が(計7個)付きます。では、この二つの違いは?どちらを使うべきなの?

例えば、同主調へ転調する展開があるとき、D♭メジャーでスタートすると、D♭マイナーというスケールが存在しないため(なぜ存在しないか・・・これは、上の「その度に臨時記号をつけなければならない」の部分と同じような理由ですが、詳しくは下の「地獄の覗き穴で」で説明します)、C#マイナーへの転調を強いられます。この場合、5つの♭をすべて消し、4つの#を追加しなければならず、読譜が非常に煩わしくなります。C#メジャーからスタートすれば、同主調への移調は#を3つ消すだけで良く、簡単です。

さて、なぜ「D♭マイナー(変ニ短調)」というスケールが存在しないのか・・・。ものはためし。一度、D♭からスタートする短調のスケールを弾いてみましょう。気をつけるのは、レの♭は「D♭」と表記するのであって、これをC#と表記してはいけない、ということです。これをD♭と表記するとなると、自ずとすべての音の表記方法が決まっていきます。

・・・弾けましたか?構成音はなんでしたか?

レ♭・ミ♭・ミ・ソ♭・ラ♭・ラ・シ・レ♭

ですね。「ミ♭」と「ミ」は問題ありません。なぜなら、「ミ」は「ファ♭」と表現すればいいからです。

問題は「ラ♭」と「ラ」です。調号としては既に「ラは常に♭」と表現されていますので、「ラ」を表現するには、その度にナチュラルをつけるか、「シ♭の半音下」と表現するしかありません。しかし、「シ♭の半音下」は「シのダブルフラット(♭♭)」であり、これをスケールを表現するための調号として使用することはできません。したがって、このようなスケールは・・・正確に言えば、「このような表現方法は」存在できないのです。

C#マイナー(嬰ハ短調)としてなら存在できます。C#マイナーなら

ド#・レ#・ミ・ファ#・ソ#・ラ・シ・ド#

となり、すべての音を矛盾なく表現できるからです。

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