トニックを避ける

トニックコードは 曲の調を決定するとても大切な要素です。しかし、終止感が強いため、ある種の「お決まり感」が漂ってしまい、表現が幼稚になったり、ワンパターンに陥りや すくなったりします。実際、30年前から現代へ到るまでのヒットソングを比較分析した結果、トニックコードの使用率は年々減少しているという統計結果もあ ります。多くが代理コードへ飛んだり、トニックへ戻る前に転調してしまったり、どうしてもトニックに戻る場合でも分数コードを使ったり(例えばトニックに戻るところをIではなくI/IIIにするだけで、終止感はかなり薄まります)、テンションを活用したりといった動きを取っているようです。

ジャズが衰退した理由は、ある時点からコードがあまりに複雑になり、リスナーが踊ったり、理解したりできなくなってきたからだと言わ れています。しかし、(恐ろしいことに)現代ではm7(-5)とかドミナント7(+9)なんていうコードは普通に使われています。世の中、それくらい複雑 になってきているということなんでしょう。

ショパンの時代、彼の音楽は一部では不評だったそうです。理由は「不協和音が多い から」。あの時代、彼の音楽のコードは複雑すぎたのです。しかし今、彼の音楽を聴いて、その不協和音に不快感を覚える人はいないでしょう。時代の複雑さ は、テンションコードや不協和音の受け入れられ方にも多いに現れてくるようです。

話が逸れましたが、時代が複雑になれば音楽も複雑になるもの。トニックの「圧倒的な終止感」が現代にはフィットしなくなっているのも確かです。常にトニッ クを回避するのが必ずベストなわけではありませんが、何かの局面にはトニックを意識的に避けるという考え方も有効かもしれません。

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