録音
録 音と書いてしまいましたが、ちょっと範囲が広すぎました。私達が録音の中で想定するのは、練習スタジオでの録音と、楽器などをいわゆるライン録りすること です。録音には非常に多くの知識と経験が必要で、答えから言ってしまうと、経験するしかありません。ここに事細かに説明してもきりがありませんので、ご興 味のある方は具体的かつ詳細な知識を書いている専門書を読まれ、”実験してみること”をお薦めします。録音に対しては必ず事前に”実験”や”テスト”を綿 密に行うことを必要とします。まずいきなり本番録音というようなことは避けるべきです。ここでは専門書があるとして、どのポイントに注目すべきか、録音 シーン別に整理してみます。

<練習スタジオでの一発録音>
私が友人にスタジオ一発録音を頼まれたときは、まず練習の回に機材を持っていって、とにかく一回とります。場所やその場の機材、バンドの力量や特性などを把握します。その上でメンバーと話し合って作戦をたてて、日を置いて本番収録をします。

一発録りでの最大の問題は、”かぶり”です。ボーカルのマイクにドラムの音が入ったりする状態を、「ボーカルにドラムがかぶった。」と表現します。この状 態だと、かぶった方、すなわちドラムの音が悪くなります。これを避けるには理想としてはボーカルだけ別ブースで集録ということになりますが、そのような設 備を持つ練習スタジオは高価です。

でも工夫はできます。狭いスタジオの中とはいえ、配置を考えることです。ドラムとボーカルの距離を離す、ボーカルを吸音壁の近くに置く、マイクは当然、ド ラムに向かないようにするです。次にドラムに対してのギターやベースのかぶりを避けます。私の場合は、ギター、ベースからはヘッドアンプのダイレクトアウ トをもらいます。そして、できればアンプの音を切ってもらい、こちらからのヘッドフォンの返りを聞いてもらいます。ただ、ドラムのマイクゲインは低く設定 することになりますから、多少アンプから音が出ていても、大丈夫な場合があります。かぶりなので、ギターやベースの音を良くしたければ、アンプを切れと言 います。それが嫌な人もいるわけですが、「音が悪くなるよ」と断っておきます。

一発録りの場合、収録装置のモニターアウトを分配してヘッドホン分配アンプでメンバーに割り振るのがベストです。私の場合は録音にはZoom R16を 使っています。4ピースのバンドであれば十分であり、事前にセッティングを記録して持ってゆけます。時間と品質をトレードオフを考えると自分でこのような システムを持ち込んだほうが得策です。

チャンネル割りとしては、ギター、ベース、ボーカルで各1チャネルづつ、ドラムはキック、スネア、ハット、トップのLRの5チャンネルです。キックとハッ トのマイク位置セッティングには十分に気をつけてください。研究が必要です。専門書などで事例を確認し、集録中にも設定変更や調整を怠らないようにしてく ださい。録音は24ビットで行うほうが失敗をはるかに抑えることが出来ます。ドラムについては、レベルを若干抑える、つまりヘッドルームに余裕を持たせて ください。

次にボーカルですが、これはもう、マイクとヘッドアンプが最大のネックとなります。とにかく与えられたマイクのうち、一番健康そうなマイクで集録してくだ さい。つまり新しいマイクです。できればコンデンサマイクが良いです。あとからどうにでもなります。プロ並みでドラムに負けない声量がある場合はダイナ ミックマイク、スタジオでは一般的はShureSM58や57でもいけますが、大抵は感度が取れなくて、S/Nが悪くなります。できればコンデンサマイク でヘッドアンプまで別誂えしたほうが理想です。個人で買う場合は有名メーカの5万円以上のコンデンサマイクが良いでしょう。1万円を切るマイクもあります が、それはその分性能維持期間が極端に短いと思ってください。とにかく安い製品は耐久性がありませんし、癖が強すぎます。私の基準マイクはNEUMANN U87Aiですがさすがに値段が高いために個人所有していません。借りることは出来ますので調べてみてはいかがでしょう。このマイク、13年間使いこんだ ので何に使っても使いこなせます。泥酔していても使える自信あります。プロの世界では、NEUMANN、AKG、BEYER、SCHOEPS、 SENNHEISER、DPA、TELEFUNKEN、SONYが使われます。ドイツ製品−ヨーロッパ製品が多いですね。



<ライン録り>
スタジオ、自宅でライン録りするときの注意点はなんでしょうか?

とにかくケーブルのトラブルが多いと思ってください。ギターケーブル、シンセのラインケーブルともに、電源ケーブルと分離して置いてください。もっとも やってはいけないことが電源ケーブルとラインケーブルを平行して置いてしまうことです。ノイズが知らない間に入っていませんか?それは電源ケーブルの近く にラインケーブルがあるからです。また、どちらのケーブルもとぐろを巻いていませんか?ノイズと音質低下を招きます。

これを避けるために作られたのがバランスケーブルです。バランス端子がある場合には出来るだけこれを使ってください。ただし、あくまで軽減させるものなので、やはりとぐろを巻いていたりすれば影響がありますし、電源に近いなどではノイズが発生します。

ノイズが目立つようだとアースのとり方にも気をつけてください。ACでもACアダプタでもそうですが、コンセントのグランドを正しく使ってください。

コンセントを差し込むときに電気火花がみえることがありますが、こういった場合は大抵、コンセントグランドを間違えて挿そうとしているときです。この場合は一旦抜いてしばらく時間を置いてから、左右逆というかコンセントをひっくり返して指し直してください。

アース端子つきのものは下手に接続すると機器を壊しかねません。アース設備があるような家でそれを理解しているなら説明の必要もありませんが、スタジオな どでも「下手にアースをつないではいけない」ということだけ気をつけてください。使うなら設備的、電気的な理解と裏づけを持って勉強してから利用してくだ さい。

もう一つは機器それぞれの入力インピーダンスと出力インピーダンスです。一般には入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低く設計されています。 ただし、マイクやギターのように出力インピーダンスが高いものについては、それより入力インピーダンスの高い機器に繋がなければなりません。インピーダン スの高低を間違えるとハイ落ちしたり音量が極端に低くなります。

インターフェースに”Hi-Z”というスイッチが付いているものがありますが、これが入力のインピーダンス(Z)を高くするものです。プロの世界では、ラ インは入力出力インピーダンスともに600Ωを基本としています。民生機では上記のように”ハイ受け、ロー出し”に設計されています。ただしマイクなどは 極端な”ハイ出し”であるため、そこにマッチングをとるものがヘッドアンプとかプリアンプというものです。ノイズの問題や、音質の問題を解決できない場合 は、こういったプリアンプの導入を考えるようにしてください。

一般に安価な機器は、こういったバランス回路や高インピーダンスの部分の設計が簡略化されており、使えればよい状態であることが多いです。インピーダンスの取り扱いは、小学生の時に習う、オームの法則の知識があれば容易理解できるものです。

問題点があるときは、ある程度の知識の取得を行って対策を講じる癖をつけてください。基本知識が無いところに経験を積んでも実は結びません。すくなくともプロは電気知識(電話工学)を2年以上学んで仕事をしています。

最後に根性論ですが、録音とは音制作のもっとも重要な部分です。調整卓はシンセサイザではありません。(いや原理は同じですが)良い音でとった素材はどの ようにも加工できますし、何よりバランスがとりやすい。結果、以後の制作においてイマジネーションを広げてゆくことが出来ます。

シンセにせよ、ギターにせよ、まず良い音であり、良い音で録ることが大切です。それはシンセ音の調整にも関わります。プリセットはあくまでプリセット。基準点を与えてくれているに過ぎません。必ずプリセットから楽曲に向いて調整をしてください。

あとはちょっとしたシンセのコツ。シンセ音は単体で作らない。出来ればメーカーの違うシンセをミックスして1つのシンセ音を作ってください。また、同じ メーカのシンセを複数持たないようにしてください。同じメーカのシンセはたとえオシレータ方式が全く違うものでも、同じ音の傾向を持ちます。ミックスした ときにまとまり過ぎてしまい、バランスが取りにくく、面白味のない作品になりがちです。

違うメーカのシンセを組み合わせることだけでお互いを引き立て合うことが出来ます。
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