〜増幅率を時間制御する<バッファ>アンプである。〜
少なくとも私は大きくこのように捉えます。<バッファ>は技術的用語なので、分からなければ無視しても構いません。この意味ではギターのディストーションも仲間です。
ディストーション/オーバードライブは
〜途中で増幅するのを止めてしまう<バッファ>アンプである。〜
いや、本当に増幅を止めさせるのと、回路電源の限界越えて増幅させたり、入力段でいきなりチョッパーかけるなど、いくつか種類がありますが、ディストーション/オーバードライブは表現に帰結させています。
帰還回路にチョッパーを入れると一定レベルで増幅を止めさせることが出来ます。私はこれが好きです。(技術用語なので無視して構いません)
言い方を変えてみると、ディストーション/オーバードライブは
〜時間制御をしないリミッタ〜
とも言います。
ギターだと分かり易いですが、電池を入れるモデルはピックアップの直下に、プリ/バッファアンプが入っています。このバッファアンプの増幅率を上げるとコ
ンプっぽくなり、コンパクトエフェクタでと言うところのオレンジ・スクイザーという製品が代表的な物。コンプ/リミッタは「アンプです。仲間もたくさんあ
ります。」っていうことです。。
それでは実際の制御の仕方を整理しましょう。マキシマイザや、サイドチェイン機能、ディセッサには言及しません。あくまで基本的機能のコンプの注意点についてです。
(1) コンプ/リミッターを使うのか選別する。(普段、私はここまでしません。)
- まず、各チャンネルのフェーダを0dB一直線に揃える。
- フェーダを触らずにインストゥルメントのOUTPUTレベルで一度、意図したバランスをとってみる。
- フェーダを0dB一直線にしておくのは、0dB付近がもっとも微細な調整が出来るため。
※当たり前ですが、MIXアウトはPEAKメータで0dbを越えさせない。-3dB位適当に下がっていれば良い。
- MIXアウトにいきなりトータルにコンプをかけてみよう。
- 手持ちのコンプのプリセットそのままで良い。
- プリセットが無いなら、2:1で、スレッショルド-6dB、アタック100ms、リリース最短。
※圧縮比を高くとって、スレッショルドを上げちゃうとわけが分からなくなります。上記くらいでが妥当。
- このとき「弱くなった」と思ったものだけ触ります。変化が感じられないものは放っておきます。
- ラフミックスをして、トータルコンプをかけてみる。という事をしてみたということです。
- これだけで「いいじゃん」と思ったら、細かくバランスとコンプを調整してカンパケとします。これが理想です。
ここで”問題を感じたトラックのみ”にコンプリミッタをかけるようにしてください。
<ポイント1>:不要なものには極力コンプをかけない。かけなくて良いものはできるだけかけない。
<ポイント2>:ズバリ、コンプをかける必要がある場合の多いものは、ドラムキット、ベース、ボーカルくらい。
<ポイント3>:アタック系のキーボード、シンセには出来るだけかけない。具体的にはピアノ、グロッケン等。音質が変わって補正できなくなることがあります。こういった楽器はもっとも高度なコンプテクニックを要します。
<ポイント4>:ストリングス系も出来るだけかけない。本来、そもそも不要です。
どうしても必要性を感じる時は、バランスとEQないしはリバーブのEQで補正すること。
→ぱっとフェーダを上げるだけで問題点が把握できるまでにはやはり経験量が多く必要です。
(2) コンプ設定の考え方:アタックとリリース
- タイミング:基本はスローアタック/ファーストリリースです。
※しかし、これだと掛かっているかどうか分かりにくいですよね。
- アタックの調整:アタックの時間を短くしていって、”問題点の解決になる部分”を探る。
- スレッショルドによってその問題点が解決に結びつくかを確認する。
- 上記2.〜3.を繰り返す。時間はここに掛かります。
- アウトプットレベルは適当に触っておきますが、PeakOverさえしなければ適当で。
- MakeUpというパラメータがありますが、自動的に動作するものなら使わないでください。性能の良いソフトコンプならまあ、
使っても良いとは思います。これはコンプで叩いたときに、下がった分のレベルを上げてくれるもの便利なものです。しかしそんなことは手動で十分です。機械
に任せてしまう分、スキル向上にはつながりません。
- リリースタイムはシンセで言うところのディケィに相当します。楽器によって長さをつけて行ってください。このとき、基本、次の音がくるまでリリースを伸ばしてはいけません。次のアタックとこじれて分からなくなります。
- リリースは、音の頭が団子にならない限りは短くて構いません。そしてパーカッション系であれば、次の音がくる前にコンプが切れる様に隙間を作ります。
- また、当たり前ですが、長いリリースをかけるのであれば、楽器のディケイに合わせたリリースタイムにすること。
<ポイント1>:アタックとリリースで難しいのはボーカル。
<ポイント2>:難しいと思ったら、まずはリリースタイムを短くしておけばよい。
<ポイント3>:周波数によって、アタック/リリースタイムの設定が変わる。
高音を制御したい場合はどちらも短め。低音を制御したい場合は長めで影響が見えます。低音をコンプで制御するのは意外に難しいものです。
(3) 圧縮比
- 圧縮比はまず周波数によって考えます。低音では圧縮比を低めにし、高音では高めにします。これは何が何でもと言うわけではありま
せんが、裏を返すと圧縮比によって何処に”悪影響が出易いか”のほうに注目するべきかもしれません。低音で圧縮比を高めると歪み易いですが、これは高域側
に影響があるからです。もちろん意図的であればどうぞ積極的にかけていただいて問題ありません。
- ボーカルの圧縮比は男声であれば4:1、女声であれば8:1位を使います。声質にも因りますし、アタック/リリースの影響もありますから一概にはいえませんが基準とみてください。
- へビィメタルのようなオケがぶつかってくる楽曲の場合は、20:1とかリミッターレベルです。
- ソフトウェア・コンプの場合、「コンプモデル」というパラメータがあります。Peak/RMS/Optなどと選択できますが、簡
単にいうと増幅素子の違いによる圧縮特性のシミュレーション。違いが分からない人はOptを使っておいてください。レガシーな素子のシミュレーションで
す。
- 同じくソフトウェア・コンプの場合、「フィードバック(帰還)・モデル」というのもあります。帰還回路にEQつけてます。といっ
ても分かりにくいでしょうが、4)と5)は実在の名機達のシュミレーションを行おうとするものです。Kneeは車に例えるなら細かく言うとサスペンション
のうちショックアブソーバです。カーブがやわらかければ(数値が大きければ)良いというものではありません。音によってはスレッショルドでがっちり押さえ
てください。踏ん張り度合いで決めます。車にもレーシングモードとクルージングモードを切り替えられるショックアブソーバがあると思います。Kneeが小
さいとレーシングモードというのが近いかもしれません。
- コンプの2度がけ、3度がけはKneeカーブの制御だと思ってください。「リミッタでアタック叩いて、コンプでダイナミックレン
ジを圧縮して、平均レベルを上げよう。」というように作戦を立てます。車で言うとメルセデスが、サスペンションとブッシュで道を選ばないチューニングをし
ていますが、ブッシュがKneeの小さい方で、サスペンションはKneeの大きい方を吸収します。これと同じ使い方です。
- あきらめも肝心です。音によってはアタックを叩けないこともあります。アタックに固執して圧縮比の影響で悩みそうだったら深入りせずあきらめましょう。楽器音を変えてしまうほうが早いです。
<ポイント1>:リミッタの圧縮比を使うことは稀です。そうそう使うものではありません。
<ポイント2>:圧縮比と圧縮特性は、今時のGUIで表現できるほど簡単ではありません。
使い易いコンプとは機能が少なく、なんにでも手軽に使えるもの。悩まずに目的を達成できれば良いのです。
*圧縮比の調整を繰り返しても、音によっては全く問題が解決しない場合があります。このことはブラス系のとき注意してください。
(4) スレッショルド
- どのレベル(大きさ)から増幅度を変化させるかの値ですが、「この値から”増幅度”が下がる」ということに注意してください。
- スレッショルドをうんと下げると、圧縮率を途中から変えないのと同じ。
- このため、スレッショルドを低くしすぎるようであれば圧縮比を変えましょう。
- スレッショルドを低くするのは、圧縮比が低めの時くらいしかありません。
- 上記、あくまで自然に前に出そうというときです。意図的であればどうぞ深くかけてください。
<ポイント1>:コンプはアンプ。インプットとアウトプットだけでもコンプになります。スレッショルドは言い換えればインプットレベル。
<ポイント2>:圧縮比とスレッショルドの相関性に注意してください。
(5) トータルコンプ
- トータルコンプを検討する前に、「ヘッドルーム」を検討します。トータルMIXのダイナミックレンジは、どのくらいが適正かとい
う難しい問題です。ピークメータの一番上は0dBですが、では0VUが何処に設定されているのか?0VUは人間の聴感上の基準であり、0VUは何処に行っ
ても0VUの音量感のはずです。その中で、より大きく聞かせるには、ヘッドルームを狭め、0VUでの平均値を上げてやればよい。
市販のCDは現在概ね0VU=-12dB程度に設定されているようです。デジタルビデオ機器の場合は0VU=
-20dBですね。CDも過去、0VU=−16dBであったこともあります。ピアノソロ、クラシックや映画の場合は0VU=−27dB〜−20dB、
POPsやRockは、
−12dB、ダンス物だと-10dBに満たない様子です。この27dBとか12dBとか10dBというのが音声信号の最大値・ヘッドルームに対しての、ダ
イナミックレンジを指します。
ダイナミックレンジが狭ければ、全体としての音圧が高くなります。しかし、ダイナミックレンジを狭めることは、楽曲の雰囲気を大きく損ねます。曲によって、どのくらいのダイナミックレンジが適正なのかを決めてトータルコンプを検討します。
- ベストなのは、「広いダイナミックレンジを持ちつつ音圧を上げる。」しかしこれは音圧感とダイナミックレンジトとのレード・オフ
の設計をすることになります。楽曲を損ねない範囲のダイナミックレンジを確保しつつ、より大きく聞こえるかの調整にトータルコンプを使います。具体的に
は、ピークメータのどのくらいのあたりを、うろちょろ振っているのかです。コンプを深くかけて行くと、うろちょろ振っている辺りが上昇して、振れ幅も狭く
なります。
- 余談)トータルコンプ誕生のわけ。これはレコードやフィルム録音の時代に遡ります。レコードやフィルムはダイナミックレンジが狭
く、ヘッドルームに制限があります。ヘッドルームを使い果たすと「オーバー・モジュレーション」といって、歪の原因やレコードで言うと「針飛び」の原因と
なります。与えられたダイナミックレンジを安全かつ有効に使うためにマスタリングがあり、その手段の一つとしてトータルコンプがあります。オーディオ・マ
ニアにクラシック・フアンが多いのは、楽曲的にダイナミックレンジを広く取らなければならないために、音量の小さいほうではノイズとの戦い、音量の大きい
ほうでは歪との戦いがあり、結果、レコードのスペックを叩きだすために高価な機材や様々な工夫を要したということです。CDになってからこの問題の80%
は解消されたのでしょうが、現在に至っても様々な課題は残っています。
- このような背景から、トータルコンプは最終的なバジェット、すなわちヘッドルームを有効に活用するための手段だと考えるようにし
ます。迫力のある音が作りたいというのがあっても、ダイナミックレンジを犠牲にすると、空間や情緒を失うことを注意しなければならず、結果、聴く人に意図
が伝わりません。MIXは手段なのであり、トータルコンプは更に選択肢の一つでしかありません。
- で、トータルコンプかけるなら、、、トータルコンプは「コンプ→リミッタ」の順番でかけるのが良さそう。Kneeの話と同じで
す。このとき補正EQは各帯域+−1dB程度の範囲。これを越えるようだと、失敗MIXであり補正とはいいません。トータルコンプをかけても、かけなくて
も、バランスや音質に変化が無い様に組み立てるのが本筋です。時間が無いときやラフミックスのときは、適当にかけちゃって構いませんが、本格的に作業する
ときはトータルコンプに頼らないようにしてください。トータルコンプに頼る前に各チャンネルのダイナミックコントロール(コンプとフェーダ)をきちんと行
うべきです。特にボーカルチャンネルは収録時、MIX時を問わず、フェーダがら手を離してはいけません。(まあ、MIX時はフェーダオートメーションで一
度書いてしまい、微調整でしょうが)
- マキシマイザは「もう一声、レベルを稼ぎたい!」、あるいはエンハンサとして有効となるとき、極少量使いましょう。
(6) その他
- 「コンプをかけると低音が増える。」そう思います。でも物理的にはそんなことはありません。
- コンプをかけると実は高音部も上がります。といいますか、一番レベルの高い周波数帯以外は、全部レベルが上がっています。
- そんなに深く(圧縮/スレッショルド)コンプかけてないのに、何でこんなにパキパキで息つき現象になるのか?それは超低音、超高
音でコンプに引っかかっているからです。一旦コンプを切って、EQを見直してください。いらないところにエネルギーが集中しているときに発生し易いのとあ
とはリリースタイムを調整します。
- 上記3)のこともあり、コンプの前にEQを入れることが基本ですが、コンプの前後にEQを入れたり、EQの前後にコンプを入れる
こともあります。コンプの後にEQをいれても問題ありません。順番に王道はありません。ただ、プロ用卓では、コンプの挿入箇所はPreEQ、PostEQ
のどちらかだけです。
- コンプと一番関係が深いのはEQです。1つ音声トラックをパラって分配し、それぞれの系統をEQで帯域を分割して、それぞれにコ
ンプをかけるという技もあります。何でこんなことするのかといえば、「使えない音を使えるようにするため」ですが。どうしてもボーカルが前に出ないときと
かにそのような荒業もあるということです。
- 生ドラムやサンプリング・ドラムにコンプをかけるとリバーブ感が増します。そこのところを気をつけて設定してください。
- リバーブだけにコンプをかけることも、技として使ってみましょう。リバーブが聞こえたり聞こえなかったりして、空間設計的に大き
くなったり小さくなったり安定しないことがあります。リバーブに少しコンプをかけると解消します。リバーブが全体の息つきの原因だったりする事がありま
す。
- コンプは前後感を出すツールだと考えてください。左右への配置はPANで行いますが、前後方向はフェーダ操作だけではありませ
ん。手前/奥に配置するのと、音が大きい小さいは別です。リバーブに頼らず、コンプとフェーダレベルを上手く使って空間配置をして下さい。このため、「ま
ず、フェーダを一直線に並べてみよ」が必要なのです。ドラムとベース、どちらもセンターに定位させることが多いですが、「ドラムの向こうにベースが立って
いるという空間」作成が出来ちゃったりします。大抵は、「ドラマーとベーシストが同じ位置に立っている。」事になってしまいます。
- コンプを使うと、左右の定位が広がること(変わる)に注意してください。上記8)にも関連しますが、コンプも定位感に影響しま
す。人の声だと分かり易いです。「ドラムよりデカイ顔が見えて恐ろしい」というようなことがありませように。なんにつけ、コンプをかけると定位感がはっき
りしなくなる場合があります。EQと圧縮比、アタックの設定に気をつけて下さい。
(7) 良いコンプとは
- 「デカイ音が来ても堪える(頑張って抑える)製品。」実在のコンプはアンプとおなじで、大きなトランスとコンデンサによって押さえ込む動作をします。重量級の柔道家が上四方固めをかける感じです。
- あんまりパラメータをチョコチョコ触らなくても使える製品。究極がマキシマイザーなんですが、あそこまでブラックボックスだと、意図が出せないことが多いです。「ささっと意図を反映できるシンプルさ」と、「音を選ばない懐の深さ」のある製品が良いコンプです。
- 普段は使えないコンプはフリーのVSTで山のように転がっています。しかし、味のあるのもいるので極まれな出番のために、私はフリーのコンプ・プラグインを溜め込んでいます。
(8) 鉄則
- とにかくコンプをかけるものは何か?を判断すること。
- 全体が団子状態になっていないか常に聴きながら作業すること。
- 迫力だけが音楽ではない。ヘッドルームが狭小になっていないか冷静に判断せよ。
- できればノーコンプ。手でカバーせよ。(手コンプという業がある)
- トータルコンプは最終メディアのダイナミックレンジによって決める。
- コンプはEQの役割をしてしまうので影響度を確認しながら作業する。
- デカイスピーカでも小さいスピーカでも、安い機器でも高い機器でも
- 「良い音」は必ず「良い音」に聞こえる。そんな「骨太な音」をつくるツールがコンプである。
注意:上記(1)〜(8)で説明しているのは調整「手順」ではありません。一度に総合的に判断し調整します。
|
|